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研究成果報告(JKA研究補助)

公益財団法人JKA様の「2022年度 水中の衝撃波とソリトンそして気泡の利活用による水管の損傷抑制と管壁洗浄の技術開発 補助事業」を遂行し、以下の成果を上げることができました。なお、本研究は、競輪の補助を受けて実施しました。ここに報告するとともに、ご支援に感謝を申し上げます(2023年3月31日 補助事業者:金川哲也)。


1.研究の概要
水管は、ライフラインやポンプなど、我々の生活に欠かせない必需品である。本事業では、この水管に見られる損傷を抑制すると同時に、管壁の汚れを洗浄することを目指す。水管損傷の要因は、水流中における衝撃波の形成である。衝撃波は損傷を招く悪者だが、水流中に空気を流し、マイクロバブルを効果的に用いると、衝撃波をソリトンという安全な波に変換できる。一方、衝撃波を適切に利用すると管壁の洗浄も可能となる。以上のために、衝撃波とソリトンの切替を可能とする理論的基盤を確立させる。
2.研究の目的と背景
目的は以下の2点に集約される。いずれも、衝撃波とソリトンの制御と利活用が本質であり、衝撃波とソリトンを記述可能な数理モデルを構築し、衝撃波とソリトンそれぞれの形成条件を解明する:(1)水中における気泡の振動のうち、弱い非線形性のみを上手く利用して、衝撃波をソリトンに変換し、その上で水管から放出させて損傷の懸念を排除する。本構想は前例がないため、実現に向けた基盤理論から構築する。(2)逆の原理で、水管に除去すべき汚れが存在した場合に、弱めの衝撃波の熱的散逸効果を利用して汚れを洗浄する。
3.研究内容
上記目的の(1)と(2)において鍵となるのは、衝撃波とソリトンである。そもそも、衝撃波は圧力波の非線形効果と散逸効果の釣合で、ソリトンは非線形効果と分散効果の釣合によって形成される。非線形効果に対する、散逸・分散効果の比率という意味において、形成の起源は似ているが、両波の物理的性質は全く異なる点が重要である。そこで、非線形・散逸・分散という「3性質」を求め、比較を要する。しかし、実験と数値計算からは計測値(圧力等)や波形という現実概念は判明するが3性質を求められない点が重要である(「分散計」は存在しない)。
そこで、理論的視点に立つと、衝撃波とソリトンを共に記述可能な数理モデルを創ることが可能である。それは、「弱非線形方程式」という、非線形項・散逸項・分散項の線形和で、3つの係数が3性質の大きさを表す方程式である。弱非線形方程式は、気泡流の運動全てを記述する基礎方程式系(約10連立方程式)から導くことができる。弱非線形方程式を導けたならば、3性質の係数が確定するので、3性質の大きさが判明し比較が可能となり、発展波形が予測できる(例:非線形=100、分散=99、散逸=2ならばソリトン)。仮に、係数から予測が不可能であっても、弱非線形方程式1本の数値解析から波形が得られる。
(1)損傷抑制:水に気泡を混入させると、波の分散性が現れ、分散と非線形が釣り合うとき、危険な衝撃波をソリトンに変換することができる。そこで、散逸を抑制し分散を増幅させて、衝撃波のソリトン変換によって、水管の損傷の回避を目指す。
(2)洗浄:逆に、衝撃波を形成させることによって、管壁の汚れを、衝撃波の熱的な散逸効果によって洗浄する。気泡振動の振幅の適切な制御により、散逸効果の向上を狙う。
<参考>本研究にかかわる知財・発表論文等(特に代表的な成果論文):
1) Kanagawa, T., Ishitsuka, R., Arai, S. and Ayukai, T., “Contribution of initial bubble radius distribution to weakly nonlinear waves with a long wavelength in bubbly liquids,’’ Physics of Fluids, Vol. 34 (2022), 103320. 
2) Hasegawa, T. and Kanagawa, T., “Effect of liquid elasticity on nonlinear pressure waves in a visco-elastic bubbly liquid,’’ Physics of Fluids, Vol. 35 (2023), 043309.
3) Kawame, T. and Kanagawa, T., “Weakly nonlinear propagation of pressure waves in bubbly liquids with a polydispersity based on two-fluid model equations,’’ International Journal of Multiphase Flow, Vol. 164 (2023), 104369.
4) Ayukai, T. and Kanagawa, T., “Derivation and stability analysis of two-fluid model equations for bubbly flow with bubble oscillations and thermal damping,’’ International Journal of Multiphase Flow, Vol. 165 (2023), 104456.

学位記授与式・学生表彰

2023年3月24日、金川研から7名(M2の3名、B4の2名、B3の2名)が修了・卒業しました。

全学卒業式において、長谷川建(B4)が工学システム学類総代を務めました。研究群学位記授与式において、加賀見俊介(M2)が構造エネルギー工学学位プログラム代表者を務めました。

12件の表彰がありました:

[修士]

  • 日本機械学会三浦賞(加賀見俊介・川目拓磨)
  • システム情報工学研究群長表彰(加賀見俊介・川目拓磨)
  • 構造エネルギー工学学位プログラム長表彰(田中克典)
  • 筑波大学校友会江崎玲於奈賞(加賀見俊介)

[学士]

おめでとうございます。

第2回数理の交差点

第2回数理の交差点において、金川が、以下の講演を行いました。

2023年3月23日木曜14:10 — 14:40

題目:混相流体力学と超音波医療に関連する非線形波動方程式の数理物理

要旨:多数の気泡を含む液体中を伝播する超音波の弱非線形発展過程を記述する非線形波動方程式(KdV 方程式や非線形Schroedinger 方程式) ,およびその解としての衝撃波や(音響的な) ソリトンの数理物理を述べる.また, 最近盛んに研究がなされている, 超音波医療応用(強力集束超音波による低侵襲的な腫瘍焼灼や超音波造影診断用の脂質膜で覆われた気泡のモデリング) に対する数理物理的側面からのアプローチにも触れる.