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プレスリリース(Phys. Fluids)

超音波造影診断用の膜で覆われた気泡の集団としての音響特性を調べ、膜の圧縮性による超音波の減衰が、液体の圧縮性による減衰よりも大きい場合(造影剤)がある点を、理論的に予測した論文が、AIP (米国物理学協会)の Phys. Fluids (IF = 4.980) (MechanicsでQ1(18/138); Physics, Fluids & PlasmasでQ1 (2/34)) から出版されました。

筑波大学からプレスリリースが出ました。


Kanagawa, T., Honda, M., Kikuchi, Y., “Nonlinear acoustic theory on flowing liquid containing multiple microbubbles coated by a compressible visco-elastic shell: Low and high frequency cases,” Physics of Fluids, Vol.~35, Issue 2 (2023), 023303. 

学生視点の金川研紹介(5)

4年間(内1年間休学)在学したM2の学生に紹介を書いてもらいました(金川)。


本研究室の特徴・売りなどは、他の研究室生の方々が綿密に書いてらっしゃるので、私個人が4年間金川研究室にいたことを振り返って、徒然なるままに書いてみます。以下、研究室選びに参考にならない情報が多いので、その場合、他の研究生が書いた情報を当てにしてください。

〇志望理由
厳密かつ分かりやすい授業を通じて、研究室に興味を抱いた。ゼミが無く、コアタイムが皆無。実験が肌に合わなかったので、理論研究がいいと思った。以上。

〇研究テーマ
自分から「これがやりたい!」「これをやらせて!」みたいなのがあれば、先生と相談の上で進められると思われる。が、おそらく、ほとんどの研究室生は、先生からの打診によってテーマが決まっただろう。少なくとも、自分の場合はそうであった。打診された内容に興味があり、できそうなら決定。そこまで興味がなく、遂行できなさそうであれば、他のテーマに……といったところか。研究室生によって決め方は異なってくるのかもしれない。ちなみに、フットワークの軽い理論研究だからこそかもしれないが、3年間で2つ以上のテーマを受け持つ人も一定数いる(ただし、同時に、2つ一遍に研究を進めることは、あまり無い)。
研究室全体の研究テーマに関して少し付言しておくと、理論研究;すなわち流体力学や音響学などにおいて、学術的な基礎理論を深化させることを中心に研究していること自体、国内・国外問わずあまりないと思われる(学会参加してみて、周囲の研究を見ていると、なんとなく分かる)。また、応用先が多様になりうることも無視できないだろう。応用先としては、医療工学(例えば、気泡・音波を用いたDDS,がん治療)や土木工学の分野だけでなく、最近では地震・火山活動の分野も射程圏内であり、さらなる研究発展の余地が見込まれる。

〇研究の進め方
基本的には、先生とのマンツーマンの上で、研究は遂行される。週1程度で研究の打ち合わせ(進捗報告)がある。コロナ前は対面であったが、収束?した今となっても、基本的にはTeamsを通じて行われる。おそらく、これからもTeamsを活用するスタンスで研究のやり取りは行われるだろう。このため基本的に、研究活動のほとんどは自宅で済ますことができる(研究も紙・ペン・パソコンがあれば研究できるので)。弊害があるとすれば、研究室に行く必要がないことかもしれない(宅通である自分は1年くらい研究室に行っていない……)。打ち合わせ日時は、基本的には融通が利く。研究で相談したいことがあったりすれば、自分から進んで打ち合わせを希望することも可能である。

〇研究室の最近の雰囲気
意外にも、理論研究をする人のイメージとは裏腹に、元気な人が多い印象を受ける(必ずしも体育会系を意味しないことに留意)。そのためか、最近、小規模ながら学生主体の研究会のようなものが催されており、活発なやり取りが行われている。自分は参加できていないのであくまで推測でしかないが、他人の研究のやり方、抱く悩み、考え方に触れることができる機会は、この研究室ではあまりないので、自分としてはとても良い兆候のように感じている。

〇学会(感想)
日本国内で催される国内学会と、海外で催される国際学会がある。本研究室は論文だけでなく、学会発表にも重きを置く研究室なので、研究室に所属した人は基本的に国内・国際のどちらも経験することになる。自分の場合、コロナの影響でオンライン発表ばかりであった。オンライン発表であれば、全て自宅で済む。それはそれで長距離移動に手間取ることないし、現場の緊張感も半減されるので、楽である。しかし楽な分、切り捨てられ、触れることができないものは、当然のごとくある。もちろん、観光ができないのは悲しいことだが、おそらくオンサイトの醍醐味はそれだけではないだろう。

そう思うに至るのは、自分が数か月前、ようやくオンサイトでの学会に参加することができた、個人的な体験に由来する。一口で言うと、“現場性”のようなものになるのかもしれない。それは、個人的な体感であって曰く言い難い。もしかすると、これから書くことは、思い違い・妄言かもしれない。単刀直入に言えば、学会とはなんたるかをようやく垣間見たような気がしたのであった。「なぜ、学会などという“人間”の営みがあるのか?」 私が現場で感じ取ったものは、言葉にしづらいが、少なくとも単なる情報交換以上のものがあった(気がする)。もしかすると、みんな久々のオンサイト学会だから浮足立って活気づいていた……からかもしれない。……しかし、卒業する今となっても、結局“学会とは何か”まだよく分かってなどいない。何はともあれ、最近ではようやく、オンサイトで催される国内・国際学会が目立ってきたので(十分にコロナに気を付けた上であるが)、発表準備にあくせくしながらも、学会を愉しんで頂きたい(迷走してしまったが、堪忍してください)。

〇休学について
実は、自分は大学院の間に1年間の休学をした身である。休学した理由などは省くが、ひとまず、一般的な情報を書いていこうと思う(詳細な部分は、先生やら支援室のほうに問い合わせてほしい)。
以下、ほとんどのB3には関係ないかもしれないが、休学する大学院生は、少なくはないらしい。他大学では不明だが、筑波大では休学に関する費用はかからない。0円である。しかも、どのタイミングで休学を開始して、どのくらいの期間休学をするのかもある程度の自由がある。参考までに、自分の場合、本来ならば卒業間近である12月から休学を開始して、翌年の10月に復学している(在学中の学費は生じ、休学中の学費は生じないことに注意すること)。秋学期から復学する場合、通年科目の是非が心配されるが、担当教員と話を通じて許可をもらえれば、秋学期分の授業を受けるだけで良いことになる(ありがたい)。

奨学金については、自分は日本学生支援機構のものを受けていたが、給付が停止されるだけであった。 さて、休学するか否かずいぶん迷ってしまった情けない自分であった。しかし、僥倖にも自分の場合、金川先生だけでなく、諸担当教員と相談することができた。普段の学生生活からは想像できないことであるが、先生方は何も、学問だけの先輩ではなく、“先”に“生”きる人ゆえ、生きる(?)にあたって有益な助言を頂戴することができたりする。もちろん、友人・親に相談することもあるだろう。ただ、先生方も良き相談者になりうることは留意しておくと、損はない。

・休学期間何をするか?
休学する学生はいわば、学生という仮身分を持った、剝き出しの人間となる。基本的に自由である。海外インターン行っても良し。引きこもりになっても良し。とにかく、自由である。しかし、自由は必ずしも良いものではなく、かえって重荷になることもある。その時間の使い方は個人の資質が問われ、どんな人生経験を積むかはあなた次第である(1年無駄に年を食う場合だってある)。復学に向けて、研究をしても構わない。私も色々と一段落したころになって、夏から研究を再開しようとし始めた。  

・休学と就活
M2であった自分の場合、当然、休学期間に就職活動をすることになった。会社にもよるので、一般的なことはわからないが、個人的な印象としては、休学したからといってマイナスな印象を持たれることはない。問われるとするならば、休学中に「何を、どのような目的で遂行したか」にあるだろう。しかし、休学中に何をしていたかをそこまで聞いてこない会社もチラホラとあったりする。

・個人的な教訓
悩んで、それを晴らしてから行動するものだと思っていた。しかし、実のところ、逆もありうるように思えた。行くところ行ってから、悩む。そのようなパラドキシカルな方法が、あると思う……これはおそらく、研究にも関係してくると思う。

〇どんな力がついたか
4年間で具体的にどんな力がついたのか。難しい。しかし、明らかにB4の頃の私と今の私は違う。何が違う?数学・物理的知識,文章の書き方,プレゼン能力……と言おうと思ったが、あえて抽象的に捉えてみると、いい加減な言葉かもしれないが、「批評性」といったところだろうか。批評性。「これじゃない……これじゃない……これだ!」作って直す、また作って直す……その繰り返しの中で、切り捨てる情報、取り入れる情報の選択眼が芽生えてくる。「本当にこれか?これはどうだ?」観点を変えて見てみることも重要だろう。自分でうまくやれたと思ったところが、問題点になっていたりするのだ(だからこそ、論文・プレゼンを作るうえで、他者の視点,客観・公的な観点が重要になってくる)。先生方を見ていても、この辺の情報作業がとても効率的なものになっていることは窺え、無駄がなく洗練されている(professor,professionalの語源は、「公言する」ことを含意している)。うまく言えず申し訳ないのだが、ひとまず、この力(?)の自覚と発達が挙げられるかと思われる。

〇研究室配属レース

現在のシステムは微修正されているみたいですが、4年前、自分が経験した配属レースの印象を述べておきます。

確か2人枠に5~7人で混戦したと思います。決して成績が良いとはいえない自分は、実は最初から最後まで金川研にエントリー?していたわけではありません。一時期、あまりにも混戦していたので、何となく別の研究室(第2希望)に唾つけたまま、静観していました。たぶん、同じような人は多かったのかもしれません(たぶん、このようなタイプの人が多いと変動が生じやすいのかも?)。

GPAバトルが繰り広げられ、ある程度落ち着いてきた終盤戦のちょっと前、ちょうど金川研希望人数が2人になったタイミングを見計らってGPAバトルを挑んでみたところ、勝っちゃいました。負けたらおとなしく第2希望で勝負しようと思っていたので、ラッキーでした……

今ふり返ると、滑稽ですね(他の研究室ではもっと熾烈でドロドロの心理戦が繰り広げられていたみたい?)。晴れて私は、そのまま金川研に配属という形になりましたが、しかし落ち着いていた終盤にバトルが生じるとどうなるか。無論、ビリヤードのようにカオスティックな玉突き現象が発生し、各研究室において再度GPAバトルが生じます。これは終盤間近で落ち着いていた人からすれば、たまったものではないでしょう。それゆえ、あまり1つや2つの研究室に固執せず、候補先の見当は広げた方が良いと思います。

一応、負けた人たちのその後についてフォローしておくと(ぶっちゃけ友人でもなかったので良く分かりませんが)、そんなに何か、人生で重大な出来事になってしまったみたいな印象はないです。普通に皆さん学生生活をエンジョイしている気がします。要するに何が起きて、どうなるのか、分かったものではありません。希望する人気研究室に入っても「なんか反りが合わない」(そして最悪、鬱になる)こともありますし、「ここは嫌だ、おしまいだ」と言っているわりに、何だかんだで性に合っている研究室だったりすることもあります。もしかすると、諦めていた研究室に入ることだって、ありえるかもしれません(M2)。

Chemical Engineering Science

Elsevier社の Chem. Eng. Sci. 誌 (IF = 4.889, 採択率23%) に、菊地勇成(元M2)の論文が掲載されました。超音波造影気泡の「集団」としての非線形音響特性のマクロ連続体力学に基づく数理モデリングを報告した既報の続編です。


Kikuchi, Y., Kanagawa, T., Ayukai, T., ‘Physico-mathematical model for multiple ultrasound-contrast-agent microbubbles encapsulated by a visco-elastic shell: Effect of shell compressibility on ultrasound attenuation,” Chemical Engineering Science, Vol.~269 (2023), 117541.

学生視点の金川研紹介(4)

B4の学生に金川研の紹介を書いてもらいました。主に、国際誌への原著論文投稿のプロセスに焦点をあててもらいました。学振DC1申請(=M2の5月)までに論文採択を目指した指導を重視しています(博士後期課程に進学しない場合でも、博士前期在学中の採択を目指し、ほぼ全員が達成しています)。ただし、意欲や成果次第ですが、早い場合には、B4であっても投稿例・採択例が複数あります(金川)。


こんにちは。金川研B4の学生です。

金川研に配属された当初から取り組んでいたテーマで論文を書き、幸いにも論文を採択していただくことができました。論文を書く過程で、金川先生をはじめとして、研究室の方々から多くの有意義な議論や指摘を頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

ここでは、私が論文を書く過程で受けた指導を交えて、金川研の紹介をしたいと思います。

・どのような指導を受けたか

卒論のテーマは、配属後比較的すぐに決定しました。夏頃までは、

  • 文献調査と数式変形を行い、定期的に進捗報告する
  • 今後の方針に迷ったときは逐次相談し、研究の方向性を決める

といったことをひたすら繰り返していました。研究の相談は基本的にチャットで行いますが、チャットのやり取りだけでは難しいようならばオンライン面談(対面も可)を行うという感じで、面談については希望すればすぐに日程調整をお願いすることができます。このように、相談できる機会が比較的多いことは、研究作業を進めるうえで有利な点であると思っています。

その一方で、ゼミや定例ミーティングはないので(ただし、配属直後は基礎知識の勉強や研究打合せがあるため、定期的に金川先生とのマンツーマンのミーティングが入ります)、一人で考えていても分からないことがあったら自分から相談を申し込むなど、主体的に動く必要はあります。

私の場合、数式変形が完了し、データもそれなりに集められたのが9月頭ごろで、その頃から論文執筆に着手し、書ける部分から書き始めました。数日に一回原稿を提出し、指摘を受けた部分を修正し、必要があれば面談する、ということを何度も繰り返すうちに原稿が出来上がっていきました。10月中旬~下旬に原稿が完成し、論文を投稿しました。

・何がきついか

これは他の方もおっしゃっていることですが、金川研は作文の指導に力を入れていることもあり、文章の書き方に関してはかなり厳しいと思います。大学の講義で課されるようなレポートとは異なり、論文では研究背景から始めて、研究手法、内容、結果、議論を一本のストーリーとして筋が通るように書くことを求められますが、私はそのような文章の書き方には全く慣れていなかったため、毎回の添削で大量の指摘を受けました。指摘には、論理展開がおかしいなど本質的なものから、段落構成が不自然、文法語法がおかしいなど、研究の内容とは直接関係していないが文章の書き方としてまずいというものまであり、大半の指摘は理屈で詰められるので、慣れていないうちはきついと感じるかもしれません。ただし念のため、理屈で詰められるとはいっても、あくまで研究内容に対してであり、決して人格などまでも否定されるというわけではないです。実際、指摘内容を後から振り返ってみると、確かにあれはおかしいな…と思うことも多々あります。また、図表の書き方、キャプションの書き方、論文特有の英語表現を知らなかったので、新しく覚えることが大量にあったのも個人的にきつかったと思っています。

加えて、査読の対応も大変でした。様々な視点から鋭く指摘を受け、当然ごまかしは一切効かず、査読者が納得できるように丁寧に説明することが求められました。査読者への回答書の書き方についても、論文と同様に金川先生に細部までご指導頂きました。以前、先生からは、大変さでいえば、理論解析自体よりも、むしろ論文を投稿して査読者と戦うことの方だというようなことを聞いていましたが、その通りでした…

・得られたと思うものは何か

まずは、テーマの決定からはじめて、研究結果を論文にまとめるまでの過程を実際に経験できたこと自体が非常に価値のあることだと思っています。その上で、論文を完成させる過程で、日本語・英語問わず文章を書く力、情報収集能力、効率の良いタスク処理の方法などを身に着けることができました。

一方、査読対応で如実に感じたことですが、書き手として伝えたい内容が客観性を欠いていると、読み手に全く伝わらないということを実感しました(このことが分かったのは収穫でしょうか)。日頃から客観的に明快で読みやすい文章を書けているか?を意識することで、次に論文を書く際にはより質の高い論文を書けるように精進します(B4)。