学生視点の金川研紹介’20(4)

B4に研究室紹介を書いてもらいました(金川)。


【研究テーマと進め方について】

 現在、ほとんどの学生は「気泡流」に対する「理論解析」をやっています。
 いわゆる通常の「流体力学」は、「水のみ」または「空気のみ」の場合を対象としたもので、これは工学部の学生の多くが学ぶ基礎的な学問であり、理論面は確立されたものがあると思います。それに対し「気泡流」は、「水+空気」からなる媒質を対象とするわけですが、この場合、理論の根本的なところから未確立な部分が多く (基礎方程式の表式も多岐にわたる)、それゆえ研究対象になりうる、というようなイメージです。
 金川研の研究成果として得られる数式は、もし「気泡流の力学」という教科書を作るとしたら、おそらく序盤のほうに記載されるであろう内容だと思います。このように、基礎的な数式の段階から物理 (力学) を研究することが出来る研究室は、恐らくレアだと思います。

 なお、気泡流以外のテーマ (固体力学や爆轟など) もあるようなので、特定のテーマにこだわりがある方は、配属前に相談したほうが良さそうです。ただし、金川研の理論解析の適用範囲内かどうか確認の必要があると思います。また、あくまで手法は理論解析なので、研究の進め方自体が大きく変わることは無いはずです。

 個人的に、研究室選びにおいては「テーマ」だけでなく「研究の進め方」も非常に重要だと思います。私の場合、テーマ以上に、理論解析の進め方そのものにより魅力を感じました。配属前、先生から「紙とペンさえあれば研究できる」と聞いていましたが、実際やってみて、その通りだと思います。今年の場合は特に、学会もオンライン開催なので、自宅から参加可能です (情勢次第ですが、しばらくこの傾向は続くと予想しています)。その気になれば自宅だけで研究の全行程が完結します。
 実験装置等も使わないので、装置によって進捗を左右されることもありません。また、学生間で共同で研究をすることは (基本) 無く、研究は個人プレーで行います。実際、研究室の方々とお会いする機会がほとんどなく、その点寂しさもありますが、自分のペースで進められるのは良い点だと思います。

 配属先として考える上での注意点(?)を挙げるとするならば、理論解析の作業そのものは、非常に地道です。実際、「紙とペンさえあれば研究できる」という点は、魅力的に感じる人もいれば、退屈そうに感じる人も多いと思います。また、最終的に得られる式は比較的キレイにまとまっており、物理的解釈の付与も可能ですが、そこに至るまでの計算過程はかなり膨大です。計算途中の段階では、物理的解釈を結びつけることが困難な大量の項たちと対峙することになります。この意味で、(金川先生からも再三警告されていると思いますが) 数学があまりにも嫌いな方には、苦痛だと思います。ただし、「嫌い」ではなく「苦手」程度であれば、時間さえかければ最後までたどり着けるとは思います。


【普段何をしているか】

 理論解析の実際の流れについてですが、配属直後は、気泡流に関する先行研究の式変形を再現することから始めます。ある程度分かってきた段階で、テーマに沿った新たな要素を組み込み、計算していきます (勉強だけ長期間続けるのではなく、研究しながら勉強するというイメージです)。これがいわゆる「紙とペン」で行う部分であり、ひたすら式変形することになります。当然、研究なので、良い結果が得られる保証はなく、場合によっては何通りもの計算を行うこともあるので、ある意味実験的です。

 少々意外かもしれませんが、研究として新規性がある部分は基本的にここまでです。時間としては、研究全体の30%くらいではないかと思います (テーマや個人の進捗にもよります)。以降は、計算の見直しやモデルの一部を変更することなどはありますが、がっつり理論解析をすることはほぼ無くなります。

 理論解析が終了した後は、具体的に以下のようなことをします。

・学会原稿を書く
・学会スライド・発表練習
・学会本番に参加
(・数値計算)
(・論文投稿)

 このように、学会参加を中心とした日々になります。そして、毎回の学会前には、作文・プレゼンに対し細かい指導が入ります。
 学会の参加申込時には、A4数ページ分の学会原稿や、数100字程度のアブストラクトを書く必要があり、ここで作文指導がなされます。内容の本質に関わる部分から、軽微なところまで、かなり細かく添削して頂きます。
 スライド作り・発表練習は、本番の1か月前くらいから始まります。先輩方の例も提供して頂けるので、それらも参考にしつつ作っていきます。作成途中の段階から、練習として複数回先生に発表を見て頂き、分かり易い発表になるよう、発表の中身・スライド・話し方などを繰り返し添削して頂きます。また、発表練習のあとは、質疑応答の練習として、金川先生から質問をぶつけられます。

 金川研の特徴として、(希望次第ではありますが、) 学会参加の回数が多いです。希望すれば、かなりの回数出して貰えます。その上、毎回細かく指導して頂けるので、プレゼンに関してはかなりスキルアップできると思います。もちろん、「学会=プレゼン練習の場」というわけでは無いですし、たくさん出れば良いというものでもありませんが、全国の先生方から意見を頂ける貴重な機会であり、他の研究室の方々の発表も聞けるので、得られるものは大きいと思います。学会参加自体が研究業績としてカウントされる、というメリットもあります。また、質疑応答やプレゼンのスキルに関しては、場数を踏むことが一番重要ではないかと思います。
 なので、「学会に出てみたい」「学会参加を通じて作文・プレゼンの能力を磨きたい」という方には、金川研はかなりお勧めです。ただし、金川研以外にもB4で学会に出る研究室はそこそこあるようですし、学内でのゼミをプレゼン指導のメインとしている研究室もあると思います。このようにプレゼン指導の方針は各研究室によって様々なので、気になる方は配属前に確認すると良いと思います。

 理論解析は全体の30%、と聞くと残念に思う方もいるかもしれませんが、個人的には、理論解析以降の作文・プレゼン指導に関する部分の方が重要なのではと思います。卒業後にどの分野・業界に進もうと、普遍的に役立つ能力だからです。もちろん、理論解析の手法等々や、気泡流の物理も重要ですが、例えば企業に入社した場合、就職後も同じことをする確率はまずゼロです (博士進学して研究職を目指すなら別かもしれませんが、その場合も作文・プレゼン等の能力は必須です)。これは金川研に限った話ではなく、どこの研究室でも同じだと思います。
 各研究室の配属説明会では、研究テーマに関する説明はされますが、それ以外の指導に関するところはあまり語られないと思います。理論解析は全体の30%、というのもあくまで金川研の場合の一例であり、研究室によっては、実験や解析により多くの時間を割く研究室もあると思います。研究室選びにおいては、テーマだけでなく、具体的に普段は何をしているのか・それによりどのような能力が得られるか、といった部分も重要だと思うので、気になる方は配属前に確認したほうが良いと思います。

 その他、数値計算に関しては、必須ではなく希望次第で行います (私はやっています)。テーマによりけりですが、先行研究の文献を参考にコードを書くこともありますし、金川研の先輩方からコードを提供して頂くこともあります。金川研はあくまで理論解析が軸なので、数値計算を利用する立場であり、「数値計算手法そのもの」を研究することは基本無いと思います。
 話が飛びますが、最近、金川研の研究資金で新品のデスクトップPCを買って頂きました。私が「コードを書いたが、自分のノートPCだと計算にかなり時間が掛かる」と報告したところ、その日のうちに即注文して頂き、数日後には研究室に届けて頂きました。その他の周辺機器も、先生にお願いしたところ、すぐに買って頂けました。このように、研究に必要なものは、お願いすれば高確率で買って頂けるのではと思います。
 また、論文投稿に関しては、金川研では基本的に修士卒業までに1編は書くことになっているようです。希望があれば、複数編トライすることも十分あると思います。前述の学会原稿執筆時と同等かそれ以上の細かい作文指導を受けることになり、それに加えて査読対応の場面も出てくるので、より深い経験を積めると思います。


【金川研との相性について】

 研究室配属の際、金川研との相性は、「講義の印象」から判断すれば基本的に問題無いと思います。

 研究室選びの定説として、「講義の印象で決めるのは危険」と聞くことがあります。多くの場合それで間違いないと推測しますが、金川研の場合は、講義の印象で決めて良いと思います。
 約10か月間、研究室に在籍した感想として、金川先生の研究指導のスタイルや先生の人間性も含め、講義での先生の印象と近いです。私自身も、2年生の時に先生の授業を受講し、講義や資料の分かり易さ、質問対応の丁寧さ、manaba等での連絡の迅速さが素晴らしいと感じましたが、研究指導においても同様な指導を受けることが出来ます。また、各科目の期末テストの答案に求める厳密性などから、金川研の研究スタイルがおおよそ把握できると思います。
 よって、講義を受けてプラスの印象を持った方は、相性については問題ないと思います。その逆も然りです。


【最後に】

 色々書きましたが、まとめると、

 ・自分のペースで研究を進めたい
 ・理論研究に興味がある
 ・学会に (多めに) 出たい
 ・論文を書きたい

上記のいずれかに当てはまる方には、金川研はかなりいい環境だと思います。