就活中のM1学生が書いてくれました(金川)。
研究室選びの際に、将来の就職への有利・不利を考慮する学生がどれほどいるのかは分かりません。しかし、もし早い段階からそのような視点を持つ人がいるならば、参考になるように本記事を執筆します。
まず、就職活動を経験していない皆さんに知っておいてほしいことは、研究室での研究内容と就職先の業界(自動車、食品など)や仕事内容(システム設計、工事、営業など)が完全に一致することは極めてまれだということです。たとえば、企業との共同研究を行い、その関係で特定の部署に採用されるといった特別なケースを除けば、研究内容が直接就職の有利・不利を決定づけることはほぼありません。そして、この点については企業側も十分理解しています。
では、就職に有利となるスキルとは何でしょうか。私は、洞察力と論理的に話す力が特に重要だと考えます。企業側は、就活生の研究内容そのものよりも、研究への取り組み方や、質問に対して明確かつ分かりやすく答えられるかを重視します。ある研究室のメンバーが内定をもらった企業の人事担当OBによると、その企業の一次面接では、面接官(専門外の人)に対して自身の研究内容を分かりやすく説明できるかどうかを重視していたそうです。
では、金川研究室において前述の二つのスキルをどの程度培うことができるのかを述べます。
まず、金川研究室では応用研究ではなく基礎研究を主に行っています。医療・人体・地球科学といった応用分野も見据えていますが、基礎的な学理が重視されています。応用研究は成果が直接技術開発につながりますが、基礎研究は応用範囲が広く、逆に言えば特定の産業にすぐに結びつきづらいといえます。たとえば、私の研究テーマである「多数の気泡を含む粘弾性媒質中における超音波伝播の解析」は、食品、臓器、石油、プラスチックなど、さまざまな分野に応用可能です。そのため、研究の目的を明確にし、応用や社会との関連性を常に考える機会が必然的に多くなります。これは、視野を広げ、洞察力を養うのに非常に有効です。
また、金川研究室では、テーマとの相性にもよりますが、学部4年生から学会発表や英文論文投稿が可能なほどの成果を出せることがあり、実際にその様な先輩が半数以上を占めています。そして、この学会発表の機会こそが、論理的に話す力を鍛える場となります。
学会発表に向けては、要旨の作成、スライド作成、発表練習を行う必要があります。金川研究室ではこれらの指導が非常に充実しており、発表練習ではスライド構成や質疑応答の訓練を徹底的に行います。実際に、私がB4で初めて学会に参加した際、贔屓目かもしれませんが、他大学の発表と比較して金川研究室の講演は明らかに質が高いと感じました。特に、発表時に「相手に伝わる説明をするにはどうすればよいか」を考える機会が多く、研究の本質を的確に理解することが求められます。
さらに、近年では研究室内の学生同士が環境の整った学生居室で互いの発表を聞き合い、議論を深める機会も増えています(任意参加)。これにより、論理的に話す力が鍛えられるだけでなく、他者の意見を取り入れる柔軟性も身につきます。就職活動の早期化が進む中で、これらのスキルを磨く機会が多いことは、金川研究室の大きな強みと言えるでしょう。
一方で、金川研究室の特性として「研究内容が具体的な技術に直結しにくい」という点は、デメリットになる可能性もあります。例えば、特定の業界や企業に強い専門性を持つ研究室と比べると、「研究内容を直接活かせる職種に就きたい」と考える学生には向いていないかもしれません。言ってみれば、就職先を、研究室配属と同時に決めたいのか、大学院生として就職活動をしながら決めたいのか、にもよると思います。また、理論研究中心のため、実験・開発系の職種を希望する場合は、別途実験経験を積む必要があるかもしれません。なお、テーマにもよりますが、研究対象は物理現象ですから、実験による検証や妥当性、また実験との共同研究などを考える機会は多いです(投稿論文でも査読者から大抵問われるようです)。
それでも、金川研究室で培われる洞察力や論理的思考力は、業界を問わず一生活かせる汎用的なスキルです。企業が重視する能力を鍛えられる環境が整っていることを考えると、就職活動において十分なアドバンテージを得ることができるでしょう(就活中のM1学生)。